教室バロック
何も言わない比奈をつれて
一階のロビーに降りた
奥の土産物コーナーは
今からもう物色してるヤツらが
たくさんいる
浴衣を着て、風呂に行くヤツ
卓球をしに行くヤツ
オレらは初日に見た、
桜満開の額縁の広間
全面ガラス窓の向こう
中庭に 出てみる事にする
木で出来たサンダルを履いた
竹を紐で組んだ壁
植えられた紅葉
鯉の泳ぐ池にはシシオドシ
結構近くで、虫が鳴く
鯉をしゃがんで眺める
夕日に染まった比奈の思う事、
――― 言いたい事は
全部、その顔に出ていた
今の状態に焦れてる
テレビのニュースで言ってたっけ
"今の子は、メールを待つのがニガテ"
オレのキモチが
ミツコから離れるまで待つとは
言っていたけど
実は比奈は、結構せっかちだ
モテる分きっと プライドもあるだろう
今日一日、桜井と橘を見ていて
少しつまらなくなったのかもしれない
夏
ミツコの事があった後
見慣れたメンバーで買い物に行き
アクション物の映画を見て
そろってお茶を飲んで帰った
学校が始まってからは
『伊藤さんは、家の事情で
夏休みの間に転校されました』
そんな説明が、二学期の頭にあって
『何かあったの?』と
興味ありげに聞いてくるヤツらへの対応に
お互い、『外国行ったみたいよ』と
説明に忙しく
特にオレは何も言わないし
比奈の方からも、
何も言って来る事はなかった
「 比奈 」