仮想世界に生きる少年
この教師は自分の書いた書類を思いだしたのだろう。



「そうなのね、初めての学校はどうだった」




「楽しかったです」




「嘘でしょ」




「どうしてですか」




「顔は笑顔でも、目が笑ってない。本当はどうだったの」




「つまらない場所です。
こんな場所で一日を過ごす人がバカバカしいと思いました」



「そう…、でも皆、自分の楽しめる場所を求めて、探して、見つけて過ごしているのよ。
山本君の求めているものもきっと見つかるわよ。
あなたが求めているものは何…」




「先生…言っている意味がわかりません」




「だから、あなたがやりたいことは何ってことを聞いているの」




「それなら、初めからそう言えばいいじゃないですか」




「そう言ったわよ。伝わらなかっただけよ」




「俺の求めているものはありません。
暇つぶしで、進学しただけですから」






「それなら、探せばいいじゃない。それにはきっかけが必要よ」






「きっかけですか。そうよ。だから陸上部に入部しなさい」






「結構です」







先生はまた俺の腕を掴み、移動させた。






連れて来られた場所はスタートラインだった。






「先生…、何のつもりですか」





「きっかけが必要だって言ったでしょ。
これからタイムを測定するわ」





そういうと先生はゴール付近に移動した。





先生は手を動かし、準備しろと合図を出した。





俺はしばらくしてからスタートするポーズをした。





先生を見るとピストルを上に掲げていた。






パンッ…







合図とともに俺は産まれて初めて本気で走った。






全速力、心臓が…肺が…筋肉が…心臓が…振動した。









ゴールをする頃には体力がなくなり、失速した。
< 35 / 164 >

この作品をシェア

pagetop