gently〜時間をおいかけて〜
「えっと、何でしょうか?」

女に自分のアドレスを教えた記憶なんてなかった。

自分のアドレスを教えたと言えば、数週間前の三島くんと航くらいである。

記憶をたどっても、女に自分のアドレスを教えた覚えは特になかった。

「――坪倉莢さん、ですか?」

その女は、あたしに名前を聞いてきた。

何であたしの名前を…?

そう思うと、背中に氷水をかけられたような気持ちになった。

あたしのアドレスを知っているうえに、あたしの名前も知っている。

この人は一体、何者なの?

一体誰だって言うの?

名前はともかく、どうしてアドレスまで知っているの?

「――あの…坪倉莢さん、ですよね?」

あたしから返事がないことを不安に思ったのか、女がもう1度聞いてきた。
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