gently〜時間をおいかけて〜
莢――母親はそんな夫に愛想もつきて、コソコソと見えないところで離婚の準備をしていた。

夜遅くに帰っているのは、徹夜で弁護士と相談をしている証拠だ。

家族で過ごした思い出もなければ、家族で一緒に飯を食べた思い出もない。

「次は何を取ろうかな♪」

楽しそうに言いながら、莢は椅子から腰をあげた。

そのまま料理へと足を向かわせた。

そう言えば莢のヤツ、これで何回目だ?

チラッと、俺は莢の皿に視線を向けた。

…ずいぶんと、立派なことである。

重ねられた皿はそれを物語っていた。

意外と大食いなんだなと、俺は思った。
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