gently〜時間をおいかけて〜
「何でしょうか?」

気味が悪いくらいに笑顔が引きつっているのは、普段から笑いなれていないからだと思いたい。

「教科書、貸してもいいかな?」

三島くんはお願いと言うように手を顔の前に出した。

「いいですよ」

あたしは教科書を彼に渡した。

彼は教科書を受け取ると、ペコッと小さく頭を下げた。

ありがとう、と言っているのだろう。

新品同様と言ってもいいほどに、あたしの教科書はピカピカだった。

学校で授業に使うこともなければ、家で勉強することもない。

学校でも家でも使っていないから、当然ピカピカである。
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