ひざまくらの後は?
ひとり、若い女性が相当強くあたられたか運悪く紐などに引っ掛かったのか、バッグの中身を盛大に落としていた。


手伝おうか、ふと頭を過り改札の方へ戻りかけたけど、

周りの人が何人も拾うのを手伝っているのを見て、俺はようやく家のある東口へと止まっていた足を動かした。



「あの……っ」

息の詰まったような声と同時にスーツの裾を軽く引かれて、何なんだと訝しげに振り返る。


そこには頭を俯かせて息をととのえながら、スーツを掴む女がいた。

色素の薄い柔らかそうな髪が頬にかかりその人の顔を隠しているけど、その姿には見覚えがあった。


「あ、これっ……お、落としましたよ」


スーツを掴む手を離し、差し出されたのは、……俺の定期入れ。


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