未提出課題
時間のゆっくりと進む準備室だった。
白衣が似合うと評判の、生物教師の中野トシはこめかみに人差し指をあて、一人の女生徒と向き合っていた。
その女生徒は、瀬沼桃と言った。学校指定のセーラー服を着、長い髪をゆるく二つに縛っている。
「……瀬沼、期日がいつまでだったか覚えているか。」
「二日前。」
「ほう、知っていたのか。それならどうして白紙なんだ……。」
「……、良いかなと思って。」
「何が良いんだよ、全く。」
瀬沼桃は、全く自堕落な生徒だった。
あまり校則が厳しくない高校なので、身なりのことで指導を受けることはない。しかし、遅刻や欠席が多いことや課題を出さないことなど、いろいろと問題が山積みな生徒だ。
中野は溜め息を吐くと、冷めたコーヒーをスプーンで混ぜた。下の方に砂糖が沈殿してしまっているらしい。スプーンがスムーズに動かない。熱いうちにもっと混ぜておけば良かった、と密かに思った。
「先生。」
「何だ。」
「帰って良い?」
「……馬鹿か、お前は。」
全く、自堕落なお嬢様だ。