未提出課題
 

無表情に近いその表情は、真直ぐに中野を見据えていた。
眼は濁っていないというのに、どうしてこれ程に無気力で、そして浮遊感ある雰囲気なのだろう。
 

浮遊感だ。
掴み所がなく、どこか地に足がついていない。そんな感じ。
 

少なくとも自堕落なお嬢様というレッテルは、中野のなかでも酷く意識する生徒の一人だった。
 

 
「……課題はしないのに、どうして呼び出しは大人しく来るんだよ。」
 

「……。」
 

 
真直ぐに見据えられていたその視線が、ゆっくり、ゆっくりと落ちてゆく。
中野は、瀬沼桃を見つめていた。
 

 
「危機感。」
 

「ああ、一応はあるのか。」
 

 
意を解したように中野が頷くと、瀬沼桃はふるふると首を横に振った。
 

 
「出してみようかな、と、思って。……そろそろ。」
 

「……。」
 

 
はあ、と中野は盛大な溜め息を漏らした。
 

まるで危機感を持っていないらしい、瀬沼桃は、視線を外したまま黙っている。
中野はどうしたものか、と頭を抱えるように眉間に皺を寄せていた。
 


 
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