未提出課題
「あのな、お前が成績が悪くても構わないなら、わざわざこうして呼び出さなくても良いんだ。」
俺はお前の担任じゃないし、と中野が続けた。瀬沼桃は両手を膝の上で組み、何やら指を動かしていた。
「ただ、提出物くらい期日を守れなければ卒業ができなくなるぞ。」
「……。」
瀬沼桃の、この浮遊感ある精神がどこから来るものなのか、中野は知らない。本来は知らなくても良いことだし、気にする必要もない。
それが、困ったことに気になっている。
「卒業……。」
瀬沼桃がぽつりと呟いた。
中野は片眉を上げて、首を傾げる。
「そんなもの、別にできなくても良いのに……。」
「……何言ってるんだ。ちゃんと卒業したいだろうが。」
それから、瀬沼桃が口を開くことはなかった。すっかり閉口した中野は、とりあえず課題を終えるように促して、教室に返した。
ある冬の、午後のことだった。