未提出課題
「瀬沼っ……。」
開口一番、驚きを隠せないままに中野は叫んだ。瀬沼桃の小さな背中が見える。
瀬沼桃は別段気にする様子もなく、中野の方へと振り返る。
「どこへ行っていたんだ……。」
「……息抜き?」
「いきなりいなくなったら、心配するだろうが。ちゃんと行き先は教えろ。そして息抜きなら10分程度で帰ってこい!」
「……ウン。」
息の上がった中野が散々まくし立てたあとに、瀬沼桃は素直にまた頷いた。
わけの分からない行動が多い瀬沼桃に、中野は溜め息を吐き出した。
それから瀬沼桃はシャーペンを握り直し、課題を再び始めた。
それを見届けてから、中野は椅子へ腰を落ち着けた。コーヒーが冷めて不味くなったので、コーヒーをいれようと立ち上がった。
薄暗くなってきていた空が、完全に闇へと包まれた。
時刻は午後6時45分を指している。
午後7時までには下校しなければならないので、理科準備室にそれを告げる校内放送が鳴り響いた。