未提出課題
 

「瀬沼、帰るぞ。送ってやるから片付けろ。」
 

「送る?」
 

「こんな真っ暗闇の中、女子一人で帰らせることはできないだろ?」
 

 
チャリ、と冷たい音を立て、中野は車の鍵を見せた。
それを聞くと瀬沼桃は、せかせかと鞄にペンケースやプリントを詰め込み、細い首にマフラーを巻いた。
 

理科準備室の電気を消し、中野は他の理科教諭が残っていないことを確認すると、施錠した。瀬沼桃はそれを眺めながら、マフラーに顔を埋めている。
 

 
「あーくそ、寒いなっ。」
 

 
中野が唸るように呟き、自然と歩くのが早くなる。瀬沼桃はそれについて行くのに、小走りになる。
 

 
「事務室へ鍵を返しに行ってくるから、靴を履き替えたらそのまま待ってろ。」
 

 
中野は、足は事務室へと向かいながら、下足場で立ち止まっている瀬沼桃に振り返って言った。
瀬沼桃は首を縦に動かして頷いた。
 


 
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