‡いとしきみ‡
家に着いて、
 
 
「猫拾った、飼うから」
 
 
と伝えると、母親に叱られた。
 
 
「勝手に拾ってくんな」
 
 
と。
しかし、子猫を見たとたん、
 
 
「やーん!可愛いじゃないの。あんた風呂入れてきな!その間この子のご飯用意しとくから」
 
「おぅ。おい、…キナ、コ。風呂入るぞ。こっちおいで」
 
「あんたもう名前付けたの?」
 
「名前無いと困るしね。黄な粉っぽい色してっし」
 
 
俺はキナコを抱き上げ、風呂場へ向かった。本当は、今名前を決めたのだ。
黄な粉色なんて、そんなの付けたしだ。
 
“キナちゃん”
 
からとった
 
“キナコ”
 
だ。コ、を付けたのは、キナ、と呼ぶのを躊躇(チュウチョ)したから。
 
キナコ以外の名前にしなかったのは、少しでも、あの名前を呼んでいたかったから。
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