幕末異聞ー参ー
「いいのかい?あれで」
「いいも悪いもねぇよ。隊士を振り分けてたらたまたまこうなっただけだ」
偶然だよ。と付け足して、男は机に向かって黙々と書き物を始めた。
「ははは。偶然…か」
机に張りつく男の背中に笑いかけたもう一人の人物は力なく笑う。
北側の端部屋ということもあり、人通りも滅多になく、日中でも薄暗いこの部屋で談話するのは、新撰組の鬼副長と呼ばれる土方歳三と総長の山南敬助。
隊の新体制を考えた張本人たちは、どことなく落ち着かない様子でいた。
土方は少し文字を書いては筆を置き、貧乏ゆすりを始め、山南は茶を啜りながら忙しなく目を右往左往させている。
「…そろそろ来る頃かな?」
「まだ音はしねぇ」
――…タ…タタ……
「…流石に刀は持ってこないでしょう。一応大人だし」
――…タッパタパタ
「いや、あいつらは図体だけでかくなって中身なんか空っぽだ」
――バタ…バタ
「いや、いくらなんでも常識くらいは持って…」
――バタバタバタバタッ
「腹括ろうぜ。山南さん」
――パーーンッ!!
土方の言葉を最後に、空気を割く破裂音が二人を襲った。