幕末異聞ー参ー
「…今日はお客さんが多いですね」
しんと静まり返った廊下に向けて山南の声がこだまする。
「誰だって別れを惜しみますよ。山南さんですもん」
足音を一切立てずに現れたのは昨日、大津から京都までの道を共にした沖田だった。
「なんだか…普段とかわらなくて懐かしい気がします」
沖田は山南と向かい合って座ると今までの来訪者にはなかった笑顔を見せた。
「窓から差すこんな日だまりで君とお茶をして、君の新しいお菓子屋の話を聞いて。昔の話をして」
「たまに仕事しろー!って土方さんに怒られましたよね」
くすくすと昔の情景を思い出しながら二人で笑いあっていた。
「…総司最後に一つお願いがあるんだ」
「?」
一頻り笑うと今度は真剣な顔で山南が沖田の手を握った。
「介錯は君がしてくれないか」
「…はい。では他に二人「いや、総司だけでいい」
「!?」
「君の剣の腕は一番よく知っているからね」
介錯人とは切腹の際に切腹人が腹を刺したとほぼ同時に首を切り落とす役目である。
これは通常三人か二人つけるもので、一人が仕損じたときにもう一人が留目をさす。だが、山南は敢えて沖田を信じて彼だけを介錯人に指名したのだ。
「…わかりました。責任もって勤めさせていただきます」
「お願い致します」
二人揃って深々と頭を下げた。