幕末異聞ー参ー
――パタン
「おかしなお方やね。あんな指名のされ方も女子はんに指名されたのも初めてどす」
明里は金糸と銀糸をふんだんに使用した朱色の着物をひらりと翻し、窓を背にして座った。
「すまんな。急用だったもんでな。名乗るのが遅れたが、うちは新撰組の赤城楓いうもんや」
「新撰組!?しやかて新撰組は女人禁制のはずじゃ…」
「まあ、特例ってやつや」
楓は腰に差していた大刀を左脇に置き、明里の正面に正座する。
「今日は、山南総長について話があるんや」
酒を出そうとする明里を制して楓は声を低くして彼女の目を見た。
「山南さんの?」
酒を注ぐ明里の手がぴたりと止まりなぜか震え始めた。
嫌な予感がする。
まだ名前しか聞いていないのに明里の耳はすべてを拒否しようとしていた。
拳を作った手に力が入る。
「山南さんが…どうかしはったんどすか?」
まるで全身が心臓のように鼓動している。
この先を聞きたいようで聞きたくない。
でも聞かなくてはならない。
明里は楓の口が開くのを待った。
「切腹なされました」
「…」