幕末異聞ー参ー
「桜が見たいです!!」
「巡察に出れば嫌ってほど見れる」
「今日見たいんです」
「だから今日あるやろ!」
「夜じゃないですか!」
「夜桜の方がきれいでええやん!」
「夜は眠くて桜どころじゃないんです!!甘味屋も開いてないし!」
「…」
新しく与えられた部屋で寝転がっていた楓の傍でだだを捏ねているのは彼女よりいくつも年上の沖田だ。
今日の彼の要求は桜見物をしながら甘味を味わいたいということらしい。
だが当然、出不精の楓は起き上がる気配もない。
座布団を枕代わりに猫のように日溜まりでうずくまる。
「新八とかあの辺誘えばええやろ?祭り好きやから付き合うてくれるて」
あくび混じりに手をひらひらと上下に降りあっちへ行けと促す。
「永倉さんたちは女子かお酒目当てだから嫌なんです!たまにはつきあってくれたっていいじゃないですか!!」
その態度にむっとした沖田は楓が枕にしていた座布団を思いっきり引っ張って抜き取った。
「だっ!!」
ゴンという鈍い音と共に楓のつり目が更につり上がる。
「…欲しいもんあったら全部あんたの奢りで買うんやで?」
「はい!」
「半刻(一時間)だけやで?」
「はいはい!」
沖田は二つ返事で目を輝かせて外出の支度をするため急いで自室へ戻っていった。
「…くそっ」
せっかくの半休をよりによって沖田に潰された楓はまだ痛む頭を擦りながら舌打ちをした。