幕末異聞ー参ー
「で、ここのどこが甘味処なんや?」
歩いている楓の機嫌は最高潮に悪かった。
「甘味処はこの後連れてってあげますから!まずはこの鉄の臭いと小気味いい金属音に聞き
「いれるかー!!」
遂に我慢の限界を迎えた楓の鉄拳が沖田のこめかみに炸裂した。
ここは丸太町にある通称鍛冶屋通り。
丸太町には昔刀匠が集まっていたこともあり、今でも鍛冶屋が多いのだ。
「いったた…だって行きつけの鍛冶屋さんがもう刀変えないとだめだっていうもんですから一緒に選んでもらおうと思って」
くらくらするのか頭をふらつかせながら口を尖らせる沖田。
「そんならうちやなくて斎藤せんせー連れてくりゃええやん。あの人刀の目利きすごいんやろ?」
斎藤は刀をこよなく愛する愛刀家で、贋作か本物かを見極めてもらいたがる者も多いくらい目が肥えているのだ。
「一さん最近姿見ないからお仕事で忙しいんだと思って」
「…はぁ」
そこで白羽の矢が立ったのが自分かと思うとつくづく運がないと思う楓であった。
「おいおい、そこのお嬢ちゃん」
「「?」」
ゆっくり歩きながら外から一軒ずつ中の様子を観察していると、店から髪を全て剃り、口髭を生やした風変わりな老人が楓を手招きしていた。
「「…」」
沖田と楓は顔を見合せ、一応呼ばれるままに店に入ることにした。