幕末異聞ー参ー
店の中は日が当たらないためかカビ臭く、そこら中に工具が散乱して商売をしているとは思えなかった。
「おやじ、本気で商売する気あるんか?」
「ちょっ楓!」
「がははは!おいらはもう完全に趣味さね。気に入った客だけこうして店の中に呼び込んで刀を売るんさ」
シャーシャーという繊細な刀を研ぐ音に会わせて店主は豪快に笑う。
「それより嬢ちゃん、何でそんな体に不釣り合いな大刀もってるんさね?」
作業の手を止めて楓の腰にぶら下がる大太刀をちらりと見る。
「別に。使いやすいから」
「んだはははは!そりゃいい!やっぱりお前さん変わり者だったわい」
雪駄をはいた足をばたつかせ子供のように笑う初老の男。明らかにこの人物も変わり者だ。
「そうや。会ったついでや。こいつに合いそうな刀あらへんか?」
「え?」
まさか自分の話題を振られると思わず、沖田はぎょっとした。
「んー?んー…そうさなぁ…」
口髭を触りながら少し考えるとやがて男は店の奥へと消えていった。