幕末異聞ー参ー
「ほ…本当に三両でいいんですか?」
「いいよ。こんな古びた店にいてもこいつも可哀想だしな」
「確かにそうだ」
最後に楓が頷いて鍛冶屋の主人を茶化す。
「お!言ってくれるね嬢ちゃん。せっかくただで刀研いでやろうと思ったのによ」
「そんなん冗談に決まっとるやん!ご主人も意地悪やなぁ」
鍛冶屋のおやじの言葉を聞いて瞬時に猫撫で声で刀を差し出す楓。まるで別人である。
「しゃーないなー。やってやるかぁ。明日取りに来いや。最高に仕上げといてやるからよ」
自信満々で楓の大太刀を受け取り、にやりとシワだらけの顔で笑った。
「…幸せそうやな」
「それはもう!!」
「甘味はええんか?」
「もうお金もないんでいいです!この子さえいれば私は何もいりません」
「…あっそ」
(気持ち悪っ)
腰に二本、胸に一本の刀を抱き締めた変人が大通りを歩いている。
正直隣は歩きたくない楓であったが、少し離れようとすると勘づかれてしまうのであまり離れられない。
結局屯所までの帰り道、人目が気になり楓には桜を見る余裕なんて全くなかった。