幕末異聞ー参ー
――五月 京都・四条堀川
「驚いたわよー!だって壬生に行ったら新撰組はもういませんって門前払いよ!!一言くらい言ってよぉ!」
「いや、うちらも急に決まって荷物まとめるのがせいいっぱいやったんよ。すまんな」
三色団子を手に取り楓は憤慨する女性に申し訳なさそうに頭を下げた。
「知らないうちに左腕怪我してるしー」
「…すまん」
「もう!女の子なんだから顔だけは気をつけてよね!」
「…はい」
途切れない文句に返せる言葉がない。
楓が訪れているのは唯一の女友達がいる甘味屋『佐久間』。
「もう…本当に心配してるんだから」
甘味屋の娘・お絹が眉をひそめてため息をつく。
「ありがとな。でも大丈夫や。そう簡単には死なん」
楓はお絹が自分を心配してくれていることが嬉しくて久々に柔らかい笑顔で頷いた。
「で、どうなの?新しい屯所は」
お絹の真剣な顔がぱっと明るい顔に変わり、楓にお茶を差し出した。
「うーん。広すぎて不便やな」
「あっははは!何それ!狭いから移転したのに今度は広すぎるの?」
お絹は口を着物の袖で押さえてけらけらと笑う。