幕末異聞ー参ー



「それだけならいいんやけど嫌なやつと部屋が近いんよ」



「あら、それは不運だね」



「あー不運も不運。これは馬鹿副長に仕組まれたとしか思えんな」




「副長ってあの噂の?」



「そう。あの噂の」



楓は湯呑みに力を入れる。





楓の怒りは屯所移転当初に遡る。



平隊士たちへ土方から西本願寺に屯所を移転することが知らされたのは、移転の僅か二日前であった。



その時に部屋割りも発表されたのだが、そこで問題が起きた。


なんと伊東と楓の部屋が隣なのだ。
平隊士と参謀が隣同士の部屋。

普通ならあり得ないことだ。だが、土方が決めたことなら話は別だ。


これは楓に対して「伊東を見張っていろ」という暗号だろう。


伊東には既に斎藤をつけているのに更に自分までつけるとはよほど警戒しているようだった。
しかし楓は仕事が増えただけで自分には何の得もなく納得いかないでいた。




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