幕末異聞ー参ー



――五月四日 蒸気船胡蝶丸が薩摩に着港した。




「お―!京よりずっと暑いぜよ!」



「薩摩は京よりずっと南方にありますからね」



四日ぶりに地上に降り立った坂本と西郷は湿気を孕んだ薩摩の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。




「坂本どん、まずは宿にご案内いたしもす」



西郷は懐かしい故郷の風景を見ながら坂本の荷物を持った。



「そりゃあ助かります!是非お願いするぜよ」




ここから坂本と西郷の怒涛の日々が始まった。






――五月五日 薩摩藩邸にて




「坂本どん!!大変でごわす!」




どしどしと荒々しい足音と共に宛がわれていた部屋で寛いでいた坂本に一枚の半紙が飛んできた。




「西郷さん、一体何の騒ぎじゃ?」



「幕府が…家茂様が第二次長州征伐を来年行うと通達が」




「なぜじゃ!?征伐は家老の首で済んだはずじゃろ!?」



「それが長州の奇兵隊という浪士の集団が不服だと幕府に食ってかかったようで…」




「…なーにをしちょるきぃ」



坂本は海より深いため息をついてあきれ顔で西郷を見た。



< 163 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop