幕末異聞ー参ー
――京都・祇園白川
「わはははは!斎藤くん、赤城くん、君たちも飲みたまえ!」
「はぁ…」
夜の町独特の艶やかな光が瞬くこの町で、一人の男が豪快に笑っていた。
「それにしても近藤殿。こ度の活躍は素晴らしかった!流石は新撰組。頼りになりますな」
川のせせらぎが聞える料亭で酒を酌み交わす男が二人。
新撰組の局長・近藤勇と会津藩士・小又善三である。
「何が頼りになりますだ。調子いいヤツやな」
「ただ酒が飲めたのだから文句を言うな」
「こんなまずい酒なら飲まんほうがマシや」
「じゃあ飲まなければいい」
「…今の心境を解りやすく例えただけやん!堅物!!」
広い座敷の端でヒソヒソと会話をするのは、近藤の警護を任された新撰組三番隊組長の斎藤一と楓。
愚痴を言う楓とは正反対に、斎藤は品よく注がれた酒を口に含んだ。
「珍しいな」
斎藤の空になったお猪口を覗き込み、楓は何かに感心していた。
「何がだ?」
特に変わった行動をした記憶のない斎藤は、じっと自分を見つめている楓を横目で見る。
「真面目一徹のあんたが仕事中に酒飲むなんて珍しいやろ?」
斎藤は元来あまり酒の強いほうではなく、宴の席ですらお猪口二杯か三杯飲めばいいほうであった。
そんな下戸が勤務中に酒を飲むなど、まずない事だろう。