幕末異聞ー参ー
「俺だって飲みたいと思う事くらいある」
大した観察力だと感心しながら、斎藤は自らお猪口に酒を満たす。
「ふっ。その飲みたい時が今に重なったのは偶然か?」
楓は意図的に盛り上がる近藤たちを一瞥した後、斎藤に尋ねた。
「…好奇心だけで発言するのは感心しない」
楓の行動と言葉の意味を理解できないほど斎藤は鈍感ではない。興味だけで何かを探ろうとしている楓を拒む。
「ふん。つまらん男やな。なんや最近、新八も左之助も素っ気ないし、どないなっとんねん」
「…永倉と原田が?」
せっかく話を流せる絶好の機会に、不覚にも楓の言葉に反応してしまった斎藤。しまったと思った時には手遅れだった。
「何でそこに食い付くん?」
案の定、楓は斎藤の反応に疑問を抱く。
「いや…」
咄嗟に機転の利いた言葉など思い浮かぶはずもなく、斎藤は曖昧な返事しかできない。
「…まぁ、うちには関係ない事やからどうでもええけど。このくそ忙しい時に変なこと考えるのだけはやめてな」
含みのある笑顔で徳利を持つ楓。
(…恐ろしい奴)
斎藤は自分の全てが楓に見透かされてる気分に襲われ、背筋が凍った。
斎藤が楓から目を逸らすと、そこには遊女に酌をしてもらっている近藤の楽しそうな姿があった。