幕末異聞ー参ー
「何故もっと頭を低くしない!貴様、武士を愚弄するのか!?」
「そもそも我らと同じ道を貴様ら農民如きが歩く事が間違いなのだ!」
「農民は農民らしく田んぼの中でも歩いていろ!!」
その出来事がきっかけだった。
ただ道を歩いていただけの人に同じ藩の奴が、泥が跳ねたと言いがかりを付けた。
農夫らしき男は頭に巻いていた手ぬぐいを取り、ひたすら頭を下げ続けていた。
一度も抜いた事のない刀に手をかけ、これでもかといわんばかりに罵る。
まるで上等な衣服を纏った盗賊のようだった。
その光景を後ろで見ていた俺はこの時、松前藩を脱藩することを決めたのだ。
――本当の武士はあんなものではない
その思いだけで俺は家を飛び出した。