幕末異聞ー参ー
「苦しゅうない。面を上げい」
畳に額をつけた斎藤と永倉の頭上から、声がかけられた。
「はっ!」
短く返事をし、ゆっくりと頭を上げる永倉。
今、彼らの目の前にいるのは新撰組の生みの親、松平容保公その人だ。
永倉は緊張から額に汗を滲ませる。
「おぉ!余は其方らを見たことがあるぞ!」
「…?」
急に嬉しそうに永倉と斎藤を交互に見つめる松平公。
予想外の反応に、永倉と斎藤は何も言えない。
「皆の衆、これは紛れもなく新撰組の者たちだ。下がってよいぞ」
満足するまで二人を見つめた後、今度は部屋の周囲に目を向け、臨戦体勢の男たちに言い放った。
男たちは松平公の命令を聞くと、いっせいに一礼し、ぞろぞろと部屋を出て行った。
漸く信用してもらえたのだと理解した永倉は安堵した。
「遠路遥々ご苦労であった」
部屋には永倉、斎藤、松平公、当主の背後に控える家老・神保のみが残った。
「滅相もございません。此度は拝謁をお許し頂き、真に光栄にあります」
斎藤は言い終わると、深々と長い最敬礼をした。永倉もそれに習う。
「うむ。このような形で此処を訪れたということは、何か急を要する事でもあったのか?」
松平公は二人に頭を上げさせ、わざわざ此処に来た理由を問う。