幕末異聞ー参ー

「はい。某、新撰組隊士の永倉新八と申します。今日は松平容保様に新撰組の局長・近藤勇についてお話を聞いていただきたく参上いたしました」

上ずりそになる声を必死で抑え、永倉は低姿勢のまま松平公に一通の書簡を差し出した。

「近藤についてか?」


不思議そうな顔で神保の手から書簡を受け取る松平公。
山折りと谷折りが繰り返された半紙を無言ではらはらて広げていく。


この無言の時間が永倉の寿命を縮める。
斎藤も、膝の上の握り拳に自然と力が入っていた。






「…うむ。話は合い解った。つまりこれは建白書と捉えてよいのだな?」

永倉と斎藤にとって一生とも思える時が終わった。
松平公は広げた半紙をそのまま傍らの神保に渡し、新撰組の二人を見据えた。


建白書とは、上役に意見を述べる書の事だ。
上位の役職が絶対だったこの時代、下位の者が意見を述べるなど滅多にない事であった。
下位の者が上に意見を言うというのは、上位の者に向けて不服だと言っているのも同じ。自尊心を傷つけてしまう恐れがあり、処罰を受ける危険もあるのだ。





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