幕末異聞ー参ー
「読んで頂きありがとうございます。松平様の仰る通り、建白書にござります」


――恩師である松平公の顔に泥を塗るような行為だと解っていても、局長のために、新撰組のためにやらなくてはいけない


永倉は決心したように松平公と目を合わせる。
永倉の強い視線を受けとめた松平公は特に驚きもせず小さく頷いた。


「其方らの口から直接具体的な内容を聞きたい。話してくれるな?」


微笑んでいるようにも見える柔らかい表情で松平公は二人に尋ねる。

「はっ」

斎藤は予想とは違う松平公の対応に疑念を抱きつつも顔には出さず、淡々と話しだした。


「池田屋でお褒めの言葉を頂いて以来、近藤局長は変わってしまわれました」

「うん?」

真剣に耳を傾ける松平公の寛大さに感謝しながら斎藤は続ける。

「会津藩と諸藩の皆様に働きを認めて頂いた事は新撰組にとって、誰よりも近藤局長にとって誇るべき事です。しかし、今日の近藤局長は本来の新撰組の職務を忘れてしまっている気がしてならないのです」


「忘れている?」


「はい。本来、我々新撰組は松平公を影からお守りするのが勤めでござります。決して、着飾って藩士の方々に引け目をとらんとするのに力を注ぐ事が目的ではございません」

言葉を切った斎藤に代わり、永倉が引き継ぐ。






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