幕末異聞ー参ー
「ふっはは。近藤、其方は真に良い部下を持ったな。幸せ者だぞ」
「「「!!?」」」
永倉、斎藤、松平公の傍にいる神保さえも混乱していた。
松平公はそんな三人の驚愕の顔をじっくりと楽しんでから、パンっと一つ手を打ち合わせた。
――ス…
その音が合図だったのか、謁見の間の外に控えていた家来が、松平公の真正面に当たる襖から姿を現す。
「「こ…近藤さん!!?」」
襖が全開になると、三人は飛び退くという表現を体現するように後ずさった。
「永倉、斎藤…」
家来の後ろに控えていたのは、紛れもなく新撰組局長の近藤勇。
しかし、最近の近藤とは少し様子が違った。
「君たちにそんな心配をさせていたなんて…本当にすまん!!」
正座の姿勢から、額を擦り付けるように体を折り曲げ声を震わせる近藤。
その出立ちは、黒の紋付きに淡い水色の袴という控えめなものだった。
「松平様…これは一体?」
状況に順応し始めた斎藤が松平公にたどたどしい仕草で向き直る。
「うん。余が私用で昨晩から此処に呼んでいたのだ」
「…!」
この言葉に一番驚いたのは神保だった。
私用といえど、側近中の側近である自分にも黙って客人を呼ぶなどあってはならない出来事なのだ。
「容も「近藤」
狙ったように神保の言葉を遮る松平公。
「彼らの建白書には其方と和解できなかった場合、腹を切る覚悟があると書いてあった。他でもない、お前と新撰組のためにだ。こんな部下を持てる者はなかなかいない。大事にしなさい」
「はっ!肝に銘じます」
近藤は伏したまま潜もった返事を返した。