幕末異聞ー参ー
「あー…もうめんどくさくなった。ちゃんとこいつら運び出しとけよ!」
ガリガリと苛立ちと呆れを顕にして楓に背を向ける左之助。
「平助にでも運ばせときゃええやろ。それよりチャンバラやろうや」
軽い調子で広い背中に話し掛ける楓は至極楽しそうである。しかし、そんな楓を振り返った左之助の表情は怒るでも笑うでもなく、困っていた。
「お前何言ってんだ?!平助はこの前江戸に発っただろう?」
「は?そうだっけか?」
「お前は鳥か!?そんくらい覚えとけよ!」
「あいつの影が薄いのが悪い」
あくまでも自分の非を認めない楓に、左之助は肩を落とした。
(平助よ。こいつの記憶からお前の名前が消える前に帰って来い)
目の前で呑気にあくびをしている女・赤城楓を前に十番隊組長・原田左之助は、遠い地へ旅立った七番隊組長・藤堂平助に向けて念じていた。