幕末異聞ー参ー
――壬生・八木邸
「さぁ!!皆今日は無礼講だ!たんと飲んでくれ!」
黒谷から五人が無事に帰営した夜、お詫びの意味と結束を深めたことに対して近藤主催の宴が屯所にて開かれていた。
「…なんでいきなり宴なんか?」
「さあ?また局長の気まぐれだろ」
建白書の一件に全く関わっていない大半の隊士たちは、急な酒宴と妙に上機嫌な近藤に当然のごとく疑問を抱いていた。
「永倉先生、斎藤先生。ご苦労様でした」
心なしか表情がいつもより柔らかく見える島田魁が永倉のお猪口に酒を注ぐ。
「で!?どうだったんだよ?」
斎藤の肩に腕を乗せた原田が徳利から直接酒を仰いだ。
「どうもこうも、これが結果だ。和解って事でいいんだろうな」
原田の酒臭い息から逃れるように斎藤は体をずらしながら答えた。
「だははは!よかったじゃねぇか!!」
原田は嫌がる斎藤を気にすることなく、二本目の徳利を手に持った。
「そうだな」
いつもは酒が入ると陽気になる永倉はなぜか今日に限って冷静だった。
死ぬ覚悟はできていると豪語していたはずなのに、結局怯えて気を張り続けていたことに永倉は今やっと気付いたのだ。
酒に呑まれて裸踊りを始める隊士たちを客観的に見ていられる自分に、永倉は自虐的な笑みをこぼした。