幕末異聞ー参ー

――京都・壬生寺


新撰組屯所近くにあるこの寺には、いつも近所の子どもたちの声が溢れている。

「もーいーかい?」

「「もーいーよー!」」 

夏の猛暑も肌を焼く太陽も子供には全く関係ない。
汗だくになりながら、今日も境内でかくれんぼをする子どもたちの姿があった。

石灯籠に顔をつけていた鬼役の男の子が、返ってきた声に素早く反応する。
玉砂利を敷き詰めた壬生寺の敷地内には、人っこ一人見当たらないが、確実に人の気配がしていた。

鬼は目を凝らして慎重に辺りの様子を伺う。
なるべく逃げた者たちに気付かれないよう、砂利を静かに踏み歩いた。


「あ!!たまちゃん見ーっけ!」


「えー!」

程なくして、鬼の高らかな声が境内に響いた。
それと同時に、本堂裏から木を揺らす音が聞こえてきた。現れたのは十歳くらいの女の子。どうやら、鬼の目を交わし切れず見つかってしまったようだ。

「あたしが一番初めに見つかったん?」

「せやで!あと五人!絶対見つけ「…ほっ…けほ…」


「「?」」

たまと鬼は首を傾げながら顔を見合わせる。
微かだが確かに聞こえた不思議な音。その出所は二人のいる場所からそう遠くはなかった。

二人は無言で首を縦に振り、息を殺して音がした方向へ歩き始めた。




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