幕末異聞ー参ー
「あ!貴女ですね!?」
「…へ?」
中谷医師の脇から少しだけ見えた琴を沖田は眩しいくらいの笑顔で指差す。
琴は反射的にふくよかな父の影に隠れてしまった。
「門の所に咲いてる朝顔!育てたのは貴女でしょう?」
琴は顔に大量の血が昇るのを感じた。
「へ…え?な…何で私だって…」
恐る恐る中谷医師の右肩から顔を半分だけ出す琴。今にも泣きそうな表情である。
「ふふ。花の美しさは育てた人の人柄を反映するのだと、昔私の恩師が教えてくれたんです」
「…っ!!?」
琴は突然の眩暈に襲われた。顔に昇った血が沸騰しているのではないかと思うくらい肌が熱くなる。
「は…あの…そ、その…おおきに…」
今まで誰一人として門の僅かな変化に気付かなかった。琴の中では嬉しさと恥ずかしさともう一つ、特別な感情がごちゃ混ぜになり、本当に泣きそうになっていた。
「琴、そろそろ腹診を始めるから奥へ行っていなさい」
みるみる熱くなる肩の手に、中谷医師はそっと自分の手を重ねた。