幕末異聞ー参ー
「おばちゃん、磯辺焼き一つ」
「はいよ」
四条河原町から望める鴨川の流れに癒されつつ、本日非番の赤城楓は一人の時間を団子屋で満喫していた。
「あんた女子やろ?最近の若い娘は袴はくのが流行りなのかい?
おやまぁ!!刀まで持っとるやないの!?」
茶を運んできた中年の女性が物珍しそうに楓を頭から爪先まで眺める。
「独創的でええやろ?」
会う人ほぼ全員に同じような質問をされる楓は、あらかじめ用意してある答えに愛想笑いを付け加えて返す。
「独創的なのはええけど…せっかくのべっぴんが台無しやん」
団子屋のおばちゃんの言葉に楓は、はっとした。
「ははは!おばちゃんおおきに!べっぴんなんて言われたことないから驚いたわ」
楓は久々に弾けるように腹から笑う。
「ええ?!そんなことあらへんやろ?髪も着物もちゃんとしたらきっと見違えるように綺麗になるで」
楓の座る長椅子に磯辺焼きが乗った皿を置き、団子屋のおばちゃんは楓の顔を覗き込む。
「へへ。言葉だけありがたくもらっとくわ」
「本当に勿体ないわぁ」
楓の釣れない口振りに、おばちゃんはぶつぶつと何かを呟きながら団子屋の奥へと消えていった。
一人になった楓は茶を啜り、再び鴨川に視線を戻した。