幕末異聞ー参ー
「あ」
川のせせらぎに風流を感じていた楓であったが、その穏やかな時間を奪う声がした。
「…非番なのに何で会わないかんのや!?」
楓は川から目を離さず、近づいてくる人物に毒を吐いた。
「美味しそうですねー。その磯辺焼き」
「…うちが言うてること理解しとるか?」
「おばちゃーん!!磯辺焼きとみたらし一本ずつください!」
「理解以前に話を聞けコラッ!!」
楓の威嚇は全く意味を持たなかった。それどころか、声の主は楓の機嫌などお構い無しに隣に座った。
「あれ?何か言ってました?」
(あんたくらいふてぶてしくなれたら世の中怖いモンなんてなくなるやろなぁ)
楓は口から出る寸前で言葉を呑み込んだ。こんなことを言えば、怖いものがあるのか?と興味を持たれてしまうだけだ。
隣に座る沖田総司の特性を嫌というほど理解している楓は、言葉の代わりに深く重いため息をついた。