幕末異聞ー参ー
あっという間に数日が過ぎ、宣言通り沖田は薬を受け取るため、『中谷診療所』に向かっていた。
新撰組の見回りの時間を避け、非番の隊士たちの所在を全て把握し、万全の状態で九条を目指す。
「どこへ行かれるんですか?沖田先生」
ちょうど六条通を通過し、間もなく七条に差し掛かるという所で、沖田の背後から鋭い声が聞こえた。
「…人が悪いですよ。山崎さん」
振り返った沖田の笑顔が引きつる。背中には冷や汗が伝っていた。
「こんな遠くまでわざわざ出かける理由を聞かせていただけませんか?」
沖田に近づいてくるのは、白い手拭いを首に掛け、深緑の作務衣を着た山崎蒸だった。
「…ふっふふ。私の口から言わなくても、貴方はもう知っているのでしょう?」
開き直ったように、沖田は身体ごと山崎に向ける。
「七条の中谷診療所…ですね?」
「はい」
逃げも隠れもできないこの状況で嘘をついても一文の得にもならないと悟った沖田は、苦笑した。