幕末異聞ー参ー
「ここ最近、夏のせいかすごく怠くて座っているのも億劫な日が度々ありました。もちろん、その間にも松本先生が定期的に診察をしてくれてたのでいつでも相談できる状況でした」
じゃあなぜ、と言いかけた山崎だったが、頭の片隅を掠めたモノに拒まれた。
それを見透かしたように沖田はゆっくりと笑みの表情を造った。
「松本先生と山崎さんは私を労咳だと疑っているのでしょう?」
沖田の形いい口から労咳と発せられたと同時に山崎の頬を汗が伝った。
「恐らく、既に松本先生は近藤さんと土方さんにその事を報告している。そんな中で具合が悪いなんて言えませんよ」
傍観者のように淡々と語る沖田が山崎の目をじっと見る。
「山崎さん。以前私は貴方に床では死にたくないと言ったことがありました」
「ええ。覚えてます」
山崎はつい先日もその言葉を自らの口で唱えていた。皮肉にも、松本の質問に答えるために。
「私が戦場で新撰組の為に生きるには、誰にも、少しの不安も与えてはいけないんです。聡明な貴方なら私が何を言わんとしているか解りますよね?」
威圧的な沖田の視線が山崎を刺す。