幕末異聞ー参ー
「あ…あの、沖田様は…どうしてここに?」
視界に沖田を入れないように、土に目をやったまま小さい声で尋ねる琴。
「私は先日処方していただいた薬を取りに来たんですけど…また今度伺いますね」
両腕に包まれた札の文字に目をやり、沖田様は小首を傾げて愛想よく笑った。
「では、失礼します。先生によろしくお願いします」
「あっ!!」
踵を返した沖田の耳に琴の切羽詰まった声が届いた。
「?」
いつになく声を張る琴に驚きつつも、沖田は振り返る。
「ち…父はまだ診療室にいる…と思いますので、私…お薬持ってきます!」
後退るだけだった琴が、意を決したように強い口調で沖田に向かって一歩踏み出した。
「いえいえ!それは申し訳ないです!それに、先生に直接会ってお話しなくてはいけない事もありますから。お気持ちだけありがたくいただきます」
沖田が首を振って琴の申し出を断ると、彼女は顔色をなくした。
「ま…まさか!!またお体の具合が悪いんですか!!?」
琴の足がどんどん門から離れていき、終には沖田を後退りさせるまでになった。