幕末異聞ー参ー
「お慕いしております!!」
私は無意識だった。いや、正確には夢中だったのだ。
自分で発した言葉を、声を発したかすらも覚えていない。
私の五感が正常に働き出した時には、視界が薄い橙色一色となっていた。
「…お琴…さん?」
自分でも何が何だか把握できていない状態の中、頭上から声が聞こえた。そう、本当に頭の真上から…。
「あの…とりあえず、落ち着きません…か?」
「…へ?」
強ばった声に、私は恐る恐る視線を廻らせた。
目前の橙色にはよく見ると、継ぎ目のような線がある。その上には漆黒のなにかの束が乗っている。そして、上を向くと…
「お…おお沖田様!?」
「あはは…沖田です」
そこには無理して笑顔を作っている沖田様の顔があった。
その瞬間、全てを悟った。
私は沖田様の胸に飛び込んでしまていたのだ。