幕末異聞ー参ー

「私も一度会ったことがあるけど、とても気さくでおおらかな人って印象だったな」

山南は記憶を辿るように天井に視線を廻らせる。

「ふん。道場剣術だけでぬくぬく育った坊やが此所でやっていけるのかね」

土方は唾でも吐きそうな苦い顔で紅葉の影を映す障子を睨み付けた。
武士とはかけ離れた薬屋の倅として育った土方にとって、幼い頃から剣術の道が拓けていた伊東にいい印象を持つことはできなかった。まだ会ってもいないのに忌み嫌うのはおかしな話だと土方自身も重々解っている。だが、気に入らないものは気に入らないのだ。


「ははは…まあ平助と近藤さんが見込んだ人だ。まずは温かく迎えようじゃないか」


長年の付き合いから、土方の心の葛藤が手に取るようにわかる山南は、穏やかに笑って土方を宥めた。



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