幕末異聞ー参ー
秋の夕暮れは早い。夕日が西の山々に半身を隠してしまえば、たちまち足許は覚束なくなる。
「遅いな」
新撰組屯所の門前では、提灯を持った永倉が遠くを見つめていた。
「まさか何かあったなんてことはないよな」
永倉の隣で塀に寄りかかって腕組みをしている原田が少し緊張した面持ちで呟く。
「縁起でもねぇ事言うんじゃねーよ」
「あ、土方さん」
どすの効いた声で原田を叱咤したのは、たくさんの提灯に照らされた土方だった。背後には多くの隊士たちを従えている。
「今島田君から報告を受けた。もう間もなくで到着するらしい。てめぇら、しっかりと道を照らしとけ」
「「「おお!!」」」
土方から指示を受けた隊士たちは提灯を手に、速やかに整列した。
「はー!こりゃ壮観ですね!お偉いさんになった気分だ!」
塀伝いに規則的に並んだ提灯に照らされた道を見て、嬉々とした声が土方の耳に届いた。
「いい気分のところ邪魔するが、お前もお偉いさんの道標の一つだ。さっさと提灯持って並べ」
「あはは。わかってますよ副長さま」
軽い調子で土方の命令に返事をしたのはいつも以上に楽しそうに笑う沖田だった。
「…お前、その顔で伊東さんの前に出るなよ。舐められるぞ」
「これから仲間になろうという方に仏頂面したって仕方ないでしょう?ついでに言うと土方さん、今の顔、敵意剥き出しですよ」
「うるせえ!生まれつきだ!!とにかくそのへらへらした顔やめろ!」
大げさに舌打ちをし、沖田の頭上から怒鳴り付ける土方。
「はぁ。わかりましたよ。じゃああんな風な悪代官顔すればいいですか?」
「悪代官顔?」
沖田が指差す方向に素直に目を向けた土方は一瞬で眉を潜めた。