幕末異聞ー参ー
「えぇーっ!!?何で一番隊に楓の名前が!?」
永倉の目線が辿り着く前に、大声を上げたのは、今しがた山野と共に屯所に到着した沖田だった。
「何だって!??」
想定外の事実を確認するために、永倉は急いで紙に向き直る。
――一番隊 赤城楓
その文字は確かに存在していた。
「……んで…何でうちがあんな奴の下に付かなあかんのや!?土方あのクソ野郎!絶対に嫌やー!!」
壊れた様に絶叫しながら、普段から結っていないボサボサの髪を掻き毟る楓。
「ちょっ…!その言い方はないんじゃないですか!?私だって貴方みたいな問題児を抱えるつもりは毛頭ありません!!」
楓の暴言に反論する沖田は敬語を使っている分、冷静なように見えるが顔は必死だ。
「新八ー!!何とかせい!」
「え?俺!?」
急に振られた永倉はちらりと辺りを見回す。
「いや…一番隊でいいんじゃね?うん。二人で仲良くやりなよ」
顎に手を当てて妙に満足気な顔をしている永倉。
それもそのはず。見回した二番隊の面々が、楓の移動を知った瞬間、見たこともない安堵の表情を浮かべていたのだ。
「楓、一番隊に行っても頑張るんだぞ」
自分の隊の平和が保たれるのであれば、迷わず切り捨てる。
永倉は、楓の肩にぽんっと手を伸せ、二番隊組長としての最後の言葉を贈った。