幕末異聞ー参ー
「新参者の私が言うのもなんですが、君、即刻ここから出ていきなさい」
「「!!?」」
あまりに唐突な伊東の発言は沖田、楓のみならず、止めに入ろうと動き出した土方、近藤らの度肝を抜いた。
「はっ!どうやらうちはえらい嫌われたみたいやなぁ」
動揺を顔に出すのは癪にさわると言わんばかりに、楓は即座に応答する。
「ここは女人禁制のはず。それに、女子は戦場に立つものではない。戦場に向かう夫を見送るものです。
今すぐに故郷へお帰りなさい」
氷のように温度のない物言いで伊東は楓を叱る。
「ふっ……ふふふ。ふはははは!!」
伊東の言葉を聞き終えた楓は、少しの間無言でいたが、突然大声で笑始めた。
「はー笑った!
おい、甲子坊」
「か…甲子坊っ!?」
伊東はまさか自分のことではあるまいなと、自らの口で反復した。
「そうや!お前やお前。いいとこの坊っちゃんだかなんだか知らんが、人の人生観にまで自分の基準を押し付けるのはやめや」
そこで言葉を一度切ると、楓はゆっくりと伊東に近づき下から見上げ、つま先立ちをして伊東の耳元まで顔をもっていった。
「それとも何か?甲子坊は男好か?」
「なっ…!!」
伊東以外に聞こえないように、楓は小声で囁いた。
「なら隠すことないで。ここではそう珍しい事やないからな。わざわざうちを追い出さなくとも、理解はあるから安心しい」
目を泳がせる伊東の姿を挑発するようにくすくすと笑う楓。