幕末異聞ー参ー

「土方副長。我らをあんな野蛮な連中と一緒にしないでいただきたい」


肌を刺すような刺々しい空気が土方、伊東から大広間全体に拡散する。


「取っ組み合いの喧嘩の方がずっとましだな」

永倉は密かに原田に耳打ちした。



「尊皇を謳う者が禁裏(御所)に鉛弾を撃ち込むなど考えられない。もし故意でなかったとしても神と同等の存在に対して砲撃するなど尊皇以前に人として許すまじき行為です。
彼らの“尊皇攘夷”とは日本占領の企みを覆い隠す為の口実なのです」


長州藩と同じと思われたことが気に入らなかったのか、伊東は語気を荒げる。


「天子様を敬い必要であれば命を捧げることも辞さない。私たちにはそれくらいの覚悟があるのだ」


「なるほどね。あんた方の天皇に対する忠誠心はよくわかった。しかし残念ながら新撰組は佐幕派だ。
勤皇家のあんたたちとは相容れない所もでてくるんじゃないか?」


土方が伊東の入隊前から懸念していた事。それは伊東一派が熱心な勤皇思想であるということだった。



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