幕末異聞ー参ー
勤皇とは尊皇と同じ意味であり、天皇を神と等しく敬う考え方。
一方、佐幕とは徳川を筆頭とする幕府を司令塔とし、その命令に従うというものである。
尊皇と佐幕。考え方に微妙なずれが生じるのはごく自然の事であり、個人であればどちらの考えを持とうが問題はない。
しかし組織となると話は違う。
集団の意識を統一するには思想までをも統一する必要があると土方は考えてきた。
佐幕で統一してきた組織の中に尊皇という違った色が混じることは土方にとっておもしろくないのだ。
「土方副長。私は尊皇と佐幕が敵対するものだとは思いません。日本国民は皆、天子様を敬っている。もちろん幕府内の人間や将軍様とて同じでしょう。
ならば佐幕派も立派な勤皇家。
尊皇を謳う私たちと同じではありませんか?」
大広間にいた誰もが伊東の話に聞き入っていた。
圧倒的な演説力。
土方のように高圧的な口調ではなく幼子に諭すような優しい口調である。
「おっと。言い忘れていました。佐幕、尊皇攘夷についての考え方については私も引っ掛かっていたので、京に来る前に江戸で近藤局長と何度も話し合い、お互い理解し合えるという結論に至りました。
解り合えないと思っていたら今私はここにいないでしょう」
「…」
土方に反論させまいとする伊東の策略は見事に功をそうした。
局長と直接話したと言われてしまえば副長の土方はそれまでである。