俺様狼と子猫少女の秘密の時間①
「せんっ…」
「先行く」
「あ……」
あたしを一度も見ずに、手だけを振り払って行ってしまった。
その後ろ姿が怒ってるように見えて…悲しくなった。
「先輩……」
違う…違うの。先輩。
那智兄だよ…お兄ちゃんなの…。
「先輩~……!」
もっと大きな声を出せば。
あるいは振り向いてくれたかもしれないのに、あたしは蚊の鳴くような声しか出せなかった。
その場で膝を折り、振り払われた手を見つめる。
拒否されることが…こんなにつらいなんて。
あたしが先輩を突き飛ばしたときも、先輩はこんな気分だったのかな…。
…いや。
それは自惚れかもしれない。
あたしは先輩が好き。だから悲しかった。
でも……先輩があたしを好きなわけはないから。
おんなじ思いはないよね。
「……せんぱいのばか」
話…聞いてくれたっていいのに…。