俺様狼と子猫少女の秘密の時間①

「でもあたしは先輩の近くにいちゃいけなくて…! 先輩はあたしが嫌いになっちゃって……」


「悠由……」


嫌われたくない。

こんなに思ったのは初めてだ。


でも……もう遅いんだよね。


まだ、右手を握られているみたい。

見た目よりずっと柔らかい、先輩の手に。



「……」


もう涙も出なかった。


「……なんでもさ。幸せの前には必ず苦しみがあるんだよ」


「……」


「つまり、苦しいことがあれば、それを越えた先には幸せが待ってるってことじゃん? 月並みかもしれないけど…きっと事実」


幸せが待ってる。


その言葉に心が揺らぐ。


「幸せだと思えるのは、苦しみを知ってるから。耐えなきゃならないことを知らない人は、幸せに気付かないんだよ?」


杏子はそこで言葉を切り、あたしの顔を見て、「そんなん寂しいじゃん」と続けた。


俯いて黙り込むあたしの背中を一回叩き、


「苦しみが大きければ幸せも大きいってのは、そういうことなんじゃないの?」


と、笑顔で言ったかと思うと。


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