俺様狼と子猫少女の秘密の時間①
声をかけようにもかけられず。
かといって黙って戻るわけにもいかず。
授業が始まったことに焦りを感じながらもしばらくそのまま向き合って正座した状態でいた。
……あ、篠原先輩はあぐらかいてるんだけど。
よく考えたら何であたし正座してるんだ。
「あのー。篠原先輩」
いい加減しびれをきらしたあたしは、まだ考え込んでいる先輩に声をかけた。
「なに」
意外に早く返事が返ってきたことに面食らいつつも、負けずに喋り続ける。
「あたし、授業に戻りたいんですけど」
「勝手に戻れば?」
「…………」
ちょっと。
なんなのこの人。
なにその「なんでそんなことわざわざ俺に言う?」的な表情。
なんか……さすがのあたしでもカチンときたんですけど。
杏子の情報ではものすごい完璧でかっこよくって、しかも優しい王子様みたいなことまで言ってたけど。
かっこいいのは否定しないけどさ。
脚色されすぎ……というか美化しすぎじゃない?
誰が優しい王子様?
少なくとも、あたしの目の前にいるこの人じゃないはず。