闇夜に浮かぶ紅い月
リビングに向かうにも気まずく、悩んだ末に私は自室へと入った。
カバンを床に放り投げて、顔を埋めるようにベッドに飛び込む。
「門限破っちゃったの、そんなにいけなかったかな」
確かに、破ってしまったこと自体はいけないことだけれど。
しばらくの間、枕に顔を押し付けて唸る。
10年、レオとは一緒に暮らし、家族をしてきた。
けれどそれは思ったよりも難しく、あれから長い月日が流れた今も、レオのことは全くわからない。
何を考えているのか、わからない。
寝返りをうったその時、首にかけられたネックレスが服から覗きだした。
銀の鎖に通されているのは普通より一回り小さめの鍵。
私の、本当の両親の形見。
(お父さん。お母さん……かぁ)
私は世間で言う記憶喪失というものらしい。
実際に私の記憶はこの家に連れてこられたところからしかない。
気付いた時には、私には両親という存在がいなかったのだ。
だから、私には本当の家族というものがどういうものなのか分からない。
そもそも知らないのだ。
レオにはもちろん感謝している。
身寄りのなかった私を引き取り、ここまで育ててくれた家族なのだから。
(家族ってこんなに悩むものなのかな。家族ってこんなに難しいのかな)
夕飯はどうしようか。でもリビングには行きにくい。
まず、瞼が重くなってきている自分がいる。
(あー、智絵理と遊び疲れたのがここでとか……)
考えることが面倒になった私は、素直にその闇を受け入れた。