闇夜に浮かぶ紅い月
──『俺は、ヴァンパイアだ』
彼は突然そう言った。
あれは、レオと出会って一年も経っていなかったと思う。
記憶を失い、まるで魂のない機械みたいだった私が、やっと自我を持ち始めた頃。
あまりの驚きでレオの作った折角の美味しいシチューが、だらしなく私の口からポタポタと垂れていく。
『おいっ!』
それに驚いたレオは、急いで手元にあった布巾を手に取った。
何やっているんだよ、と焦りながらも冷静にレオは私の口を優しく拭う。
どうして突然、そんなことを言い出したんだろうと、頭の中は「?」でいっぱいだった。
『これからお前は俺と暮らしていく。その中でお前が成長して変わっていっても、俺は何も変わらないんだ』
だから今、伝えておいたと呟くレオが、私には寂しそうに写った。
そんなレオを穴があくほどに見つめる私。
『怖いか?』
『っ』
顔を上げたレオの目は、私の奥の奥までのぞきこむように鋭い刃みたいだった。
この時の私にとってレオという人物は、ずっと無表情で何を考えているかわからない得たいの知れないもの。
正直、怖かった。
レオという人物がわからなくて。